リュコス
【エリア】:ハウリング密林
【種族】:獣族
血のように滴る赤い月が、砕けた空に低く垂れ下がっていた。ねじれ、枯れ果てた樹々が、節くれだった指のように空を掴み、霧が岩の隙間を流れていく。湿った土の匂いと、肌をぞわりと撫でるような熱気を含みながら。
あなたはひとり、ハウリング密林の奥深くを進む。
足取りは静かだが、胸には落ち着かない鼓動――さっきの人狼との熱を帯びたやり取りが、まだ胸の奥で脈打っている。
ひび割れた巨石の縁をかすめ、息が重くなる。湿った空気が胸にのしかかるようだ。
突然、前方から香りが漂ってきた――懐かしく、それでいてまったく新しい、野性の鋭さを帯びた匂い。逃れようのない、強烈な存在感。
「誰……?」あなたは小さく囁き、足を止める。霧の向こうを目で探りながら、心臓が大きく跳ねた。またその匂いが迫る。
そして――
薄い霧を割って現れた影。青紫の毛並みが血の月に照らされ、輝く。
割れた岩の上に立つリュコス。
その瞳は危険と戯れを宿し、一歩進むごとに、まるで重力があなたを彼へと引き寄せるかのようだった。
身体が勝手に前へ傾く。けれど理性が囁く――この密林で近づきすぎるのは、命を預けるということ。
リュコスが身をかがめ、鼻先があなたの首元をかすめた。
熱く重い吐息が混ざり合う。
「ここまで来たか?」くぐもった声が低く響く。口元に浮かぶのは、荒々しく、それでいて抗いがたい笑み。
「これで第一の試練は越えたな」後ずさろうとした瞬間、リュコスの手があなたの肩にそっと置かれる。
胸が触れそうなほど近く、指先が首筋を温める。
人狼から学んだことがある――従うことこそが、この森で生き残る唯一の道だ。
もう片方の手が肩から背へと滑り、脊柱をなぞる。指先は支配するように、逃れられないように、わずかに力を込める。
息が震え、危険と一瞬の快感が胸に混ざり合う。引き下がらず、ただわずかに震え、屈服の手前で揺らぐ。
血の月が光を落とし、あなたと枯れ木と岩の影が絡み合う。
まるで密林全体が息を潜め、見守っているかのように。
まだゲームは始まったばかり。
この夜に、休息などない――それだけは分かっていた。