クトゥルフ
【エリア】:ハウリング密林
ハウリング密林は、決してよそ者を歓迎しない。
一歩ごとに湿った大地がずぶりと沈み、重たい湿気が肌にまとわりつく。
遥か頭上では、正体不明の生物が叫び、その甲高く歪んだ声は絶え間ない羽音に溶け込んでいた。
光はどこか歪み、緑の影は揺れ、ねじれ、まるで道そのものが呼吸しているかのようだった。
それでも――好奇心か、あるいは飢えか。彼をさらに奥へと駆り立てるものがあった。
そして彼は、それを見た。
胸ほどもある巨大な花。
花弁は血のように濃赤に染まり、粘つく蜜で濡れ光っている。
風に揺れることはなく、むしろ生き物のように脈打っていた。
ハウリング密林の奥には「花ではない花」があると囁かれている。
その花弁は筋肉のように波打ち、腐甘い匂いで愚かな者を惹き寄せるのだ。
万象支神その一人だった。
ただ通り過ぎようとしただけなのに、蔦が濡れた音を立てて彼の四肢を締め付け、ずるずると中心へと引きずり込んだ。
中心が開き、蜜に濡れた肉の螺旋があらわになった。そこへ何かがゆっくりと、ねっとりと押し込まれていく。ぐちゅ…ぐちゅ…と音を立てながら、確実に彼の中を広げていった。
奥へ進むほどに脈打ち、ついに最初の卵がいやらしい音を立てて「ぷちゅり」と滑り落ちた。
続けてもうひとつ、さらにもうひとつ――。
クトゥルフが彼を解放したあとも、体内にはまだ残る重みがあり、そしてその異物を求めるように、彼の身体は疼きながら締めつけていた。